Day 26 // autumn foliage market |
01/03-14:24-COM(0)-TB(0)-記憶 |
その日の空はやけに白かったことを覚えている。
雪の日の朝。
俺の血だけが、その世界の色彩だった。
喧騒。活気。あるいは他の賑やかな響きで彩られる何か。
囃子の声。……ヴェニスの市場もこのようなのだろうか。
そんな他愛も無いことが脳裏をふっと過ぎった。
語られなかった物語の、その一つの形。
空を見上げると太陽がふと俺の目を焼いた。
その眩しさにふいと顔を背けターバンを目深に被りなおす。
人間のように目が眩むなんてことは無い。けれど快不快という感情は確かに俺の中に存在する。
すれ違った人の声が耳元で妙にたわんで俺の中に吸い込まれる。
口元に巻いた布を静かに引き上げた。咽てしまいそうだ。
――俺の苦手なもの。
雪。(死んだ時を思い出すから)
朝。(太陽は俺の塵を焼き尽くすから)
人混み。(人の香りに酔うから)
熱気。(香りが強く立ちすぎるから)
けれど、市場は好きだ。露天も。
あの褐色の肌を持つ子供もこの中で物語のピースを探しているのだろうか。
俺の衣装がふわりと人の空気の中で舞う。
手にもった荷物を(あの人は俺の荷物を見て、女々しいのに荷造りが上手なのね、といつも言う)ぐっと力を入れて抱えなおした。
「……貴方に天地の加護がありますよう。」
自分と行き違うように声が俺の左耳から右耳へと通り抜けた。
落ち着き払った、知性のある――けれど冷たくは無い声。シトロネラの香りに少し似ている。
縫い針の針を返すように俺は人混みの流れから外れた。
民族衣装を着た女性。
――俺も民族衣装、というに値するものを身には着けているけれど俺と彼女のそれは全然異なる。
東方系の出自なのだろう(それにしてはやけに肌色が黄色味が少ない、とは思った)。
そちらには……かつて昔少しだけ足を伸ばしたことがある。一瞬だったけれど。
俺の記憶が正しいのならば。
彼女が出店していたのは布だった。幾つか売れてしまったようで店先においてあるのはあと3色。
懐かしい色のような気がした。郷愁を誘う幾許かのなめらかさ。
あの御簾の向こうの、しゃらりとなった冠の響きと共に甦る風景の一端。
「……失礼。まだその布地は残ってるのかな」
口元を覆っていたマフラー状の布地を指先で引き下ろしターバンの淵を僅か持ち上げる。
それだけなのに世界はやけに明るかった。
「その森林の色と象牙の色。……どちらも良い色だな。
貴方のお勧めはどちらだろうか。見立てて貰った方を頂きたいのだけれど」
忙しく立ち回る店主は俺の方を振り返ると、少々の逡巡を見せた、気がした。
躊躇いとか色に出ない困惑、とかそんな何か。
「ええ…… と。そうですね。残りはこちらになりますが……
そちらの出で立ちですと、淡い色よりも濃い色の方が良いかと思います。如何でしょう。」
視界に広がるあの森の色。
湿り気をはらんだあの鬱蒼とした森の影。童話の、色だ。狂気性を孕んだ。
俺の故郷のもっともっと北の……。
もっと北に向かった時の空の色は、この目の前の女性の髪のようだったな、とふと思い出した。
(けれど俺がそんな場所に行ったのはいつのことだろう。もうそれは思い出せない)
記憶が連なる。この深緑は俺の過去を少し夜明けの中から連れてくるようだった。
――そうだ、あの象牙の色は彼女の肌の色にとてもよく似ている。
けれどその肌にはもう触れることが出来ないように、俺の目の前からその象牙の布地はゆっくりと影へと身を翻していく。
どうやら彼女は相当にシャイなようだ。身を寄り添わせたい愛しい人でもいるのかもしれない。
「……そうだな、ではこちらを頂こう」
俺の褐色の肌には、彼女の肌は潔癖すぎて、そして儚すぎた。そんなことも思い出す。
大切な事を覚えてはいないのに、どうしてそんなことばかり今の俺を苛むのだろう。
丁寧に渡された布地はふわりと柔らかく、儚さも狂気性も潔癖さも鬱蒼さも存在しなかった。
約束の対価の、ほんの一欠けらとして歌姫様や神父殿と一緒に少し飲もうかと先ほど買ったばかりのリキュールを手渡した。
金木犀の香り。俺の好きな酒。……先ほどの商人は明らかに売る気がなかったし、まだ山のように在庫も抱えているだろう。あと何本か買い足して戻るのもいい。
拒否されたらどうしよう、とも少し思ったけれど反対に柔らかな笑顔が返ってきた。
やはり女性には笑顔が一番似合う。
人混みに紛れながら俺は口元をその深緑のマフラーで覆いなおした。
柔らかく、緩やかで、そして滑らかな温もり。
欠けた記憶を埋めていく。
俺には体温など無いけれど、それでも温感は存在している。
あの目覚めた墓場の空気はやけに熱かった。
耳鳴りがする無音の夜。けれど、確かにそこには天と地を繋ぐ雫。
――俺の好きなもの。
雨。(俺が生まれた世界の象徴だから)
黄昏。(誰かに呼ばれる気がするから)
御伽噺。(運命の姫君と結ばれるから)
ベリィ。(潰すと血みたいだから)
人混みに紛れる、けれど溜まりの様に空気の循環が一時耐える場所。
そんな場所に俺は持ってきた更紗の布を張り巡らせる。
大きい必要は無い。俺が身を太陽から隠せるほどに小さな社になれば、それで。
緋色の布地の上に幾つか空の瓶。
そして更に遮光瓶を並べて上にまた更紗をかける。俺と同じように光に弱い子供達。
俺と同じだからこそ、光に弱いのかもしれない。どちらが果たして先なのか。
小さな香台に精油を一滴垂らして熱を加えれば、そこは俺だけの世界になった。
ゆっくりと深緑の布地が俺の香りに染められていく。
早く俺の一部になってしまえばいい。
そうすれば、そうすれば、あの童話の姫君達の様に、その物語のように。
道に座り込んでしまえば人混みからは隔離される。
俺はそれに満足してそのまま取り出した物語の栞を指で辿った。
あとで時間があればこの露天市に本を出している人達がいないかどうか調べてみようとも思う。
王子と姫君の、騎士と姫君の、愛らしく美しい御伽噺の数々を。
物語の中にたゆたう。
その俺を呼び覚ましたのは一つの花の香りだった。
俺の構築した世界に割り込むように、控えめに、けれど静かに流れ込む……懐かしい気配。
顔を上げると光の中に少女がいた。
眩しいのは光の所為だけではないだろう。
「どうしたんだい……哀しさを紛らわせたい?
反対に世界の色さえ舞うほどの幸せがあなたに降り注いでいるのかな
……それとも、恋の媚薬をお探し?」
手に持っていた本をぱたりと閉じる。
金の瞳。その色に見覚えがある。宵の中の意志の色。
「誰かの記憶にわたしを刻む……それも素敵だけれど、その逆を。
忘れたいけど、……忘れなくちゃいけないけど、忘れたくない想いがあるんです。香水があれば、その香りを嗅いだら、忘れずにいられるかなって。
甘くて、ほろ苦い、そんな記憶を閉じ込めておける香りを、お願いできますか」
少女が俺の“君の願いを閉じ込めてあげよう”という言葉に応えたのはそのようだった。
願い。日差しが傾いて緩く俺の時間が近づいてくる中でそれだけを思った。
あの時俺は何を考えたのだろう。
記憶。
その言葉は酷く俺をどこかに連れて行こうとする。
じっと俺の手元を見ていた少女。
イモーテルとマージョラムの香りがゆるゆると螺旋を描く様子が見えた。
ハチミツのような甘さが俺の手の中でふわりとあの中毒性さえ帯びるマージョラムの苦味に姿を変える。
俺の記憶はそんな形状をしているのかもしれない。穴だらけの二重螺旋構造。
有機生命体としてのあるべき形を持たない俺には相応しいのかもしれないけれど。
選び抜いた幾つかの香りを彼女は気に入ってくれたようだった。
本当なら、ここではなく俺のあの領域で形にしてみたかった願い。
彼女は小さな夢をその雫に託して、そして甚く丁寧に礼を述べてくれたけれど。
風がふわりと深緑のマフラーの端を宙にはためかせる。
どうか枯れず俺の記憶をその糸隅々に織り込んで。
香りは最早俺の記憶の起爆剤にはなりえなくなってしまった。
変わらぬ温感は俺の海を静かに巡る。
――温感は、嘘をつかない数少ない人間の情報だから。
俺には過去がない。記憶がないのだから、あったとしても存在できない。
過去が無い。
それはあの屋敷に仕える多くの人たちの共通の事項だ。
メビウスの輪に捉われるには過去をすてなくてはならない。
永遠に巡る春の為の。
(プリマヴェーラ。お前をそう呼ぶことにするよ、シャーマットのリデル)
アッシャー。かつてはそう呼ばれたはずの幼い俺の姿が霧の向こう側で笑った気がした。
俺は、名よりもフィルツァーンのように戦場を駆け抜けるまでになったけれど。
視界の片隅で銀の槍がちりちりと俺を責め立てるように笑う。
コイツとであったのもいつだったか。俺はどうして槍術と銃撃を修得したのか。
――ああ……本当は考えるまでもないことなのに。
御伽噺の主人公は、姫を護る力が与えられるのに何の疑問も抱かないじゃないか。
それと、同じことに違いない。そうに決まっている。
そうでない、理由などこの世界のどこにも存在はしていない。
星屑の賽を幾つこの大地に散らしたら、俺は彼女に出会えるのだろう。
そして
俺の愛しているもの。
アリス。(唯一無二の存在だから)
アリス。(俺の護るべき姫君だから)
アリス。(俺の運命そのものだから)
アリス。(鳥篭も銀の鎖ももう用意してあるよ)
雪の日の朝。
俺の血だけが、その世界の色彩だった。
喧騒。活気。あるいは他の賑やかな響きで彩られる何か。
囃子の声。……ヴェニスの市場もこのようなのだろうか。
そんな他愛も無いことが脳裏をふっと過ぎった。
語られなかった物語の、その一つの形。
空を見上げると太陽がふと俺の目を焼いた。
その眩しさにふいと顔を背けターバンを目深に被りなおす。
人間のように目が眩むなんてことは無い。けれど快不快という感情は確かに俺の中に存在する。
すれ違った人の声が耳元で妙にたわんで俺の中に吸い込まれる。
口元に巻いた布を静かに引き上げた。咽てしまいそうだ。
――俺の苦手なもの。
雪。(死んだ時を思い出すから)
朝。(太陽は俺の塵を焼き尽くすから)
人混み。(人の香りに酔うから)
熱気。(香りが強く立ちすぎるから)
けれど、市場は好きだ。露天も。
あの褐色の肌を持つ子供もこの中で物語のピースを探しているのだろうか。
俺の衣装がふわりと人の空気の中で舞う。
手にもった荷物を(あの人は俺の荷物を見て、女々しいのに荷造りが上手なのね、といつも言う)ぐっと力を入れて抱えなおした。
「……貴方に天地の加護がありますよう。」
自分と行き違うように声が俺の左耳から右耳へと通り抜けた。
落ち着き払った、知性のある――けれど冷たくは無い声。シトロネラの香りに少し似ている。
縫い針の針を返すように俺は人混みの流れから外れた。
民族衣装を着た女性。
――俺も民族衣装、というに値するものを身には着けているけれど俺と彼女のそれは全然異なる。
東方系の出自なのだろう(それにしてはやけに肌色が黄色味が少ない、とは思った)。
そちらには……かつて昔少しだけ足を伸ばしたことがある。一瞬だったけれど。
俺の記憶が正しいのならば。
彼女が出店していたのは布だった。幾つか売れてしまったようで店先においてあるのはあと3色。
懐かしい色のような気がした。郷愁を誘う幾許かのなめらかさ。
あの御簾の向こうの、しゃらりとなった冠の響きと共に甦る風景の一端。
「……失礼。まだその布地は残ってるのかな」
口元を覆っていたマフラー状の布地を指先で引き下ろしターバンの淵を僅か持ち上げる。
それだけなのに世界はやけに明るかった。
「その森林の色と象牙の色。……どちらも良い色だな。
貴方のお勧めはどちらだろうか。見立てて貰った方を頂きたいのだけれど」
忙しく立ち回る店主は俺の方を振り返ると、少々の逡巡を見せた、気がした。
躊躇いとか色に出ない困惑、とかそんな何か。
「ええ…… と。そうですね。残りはこちらになりますが……
そちらの出で立ちですと、淡い色よりも濃い色の方が良いかと思います。如何でしょう。」
視界に広がるあの森の色。
湿り気をはらんだあの鬱蒼とした森の影。童話の、色だ。狂気性を孕んだ。
俺の故郷のもっともっと北の……。
もっと北に向かった時の空の色は、この目の前の女性の髪のようだったな、とふと思い出した。
(けれど俺がそんな場所に行ったのはいつのことだろう。もうそれは思い出せない)
記憶が連なる。この深緑は俺の過去を少し夜明けの中から連れてくるようだった。
――そうだ、あの象牙の色は彼女の肌の色にとてもよく似ている。
けれどその肌にはもう触れることが出来ないように、俺の目の前からその象牙の布地はゆっくりと影へと身を翻していく。
どうやら彼女は相当にシャイなようだ。身を寄り添わせたい愛しい人でもいるのかもしれない。
「……そうだな、ではこちらを頂こう」
俺の褐色の肌には、彼女の肌は潔癖すぎて、そして儚すぎた。そんなことも思い出す。
大切な事を覚えてはいないのに、どうしてそんなことばかり今の俺を苛むのだろう。
丁寧に渡された布地はふわりと柔らかく、儚さも狂気性も潔癖さも鬱蒼さも存在しなかった。
約束の対価の、ほんの一欠けらとして歌姫様や神父殿と一緒に少し飲もうかと先ほど買ったばかりのリキュールを手渡した。
金木犀の香り。俺の好きな酒。……先ほどの商人は明らかに売る気がなかったし、まだ山のように在庫も抱えているだろう。あと何本か買い足して戻るのもいい。
拒否されたらどうしよう、とも少し思ったけれど反対に柔らかな笑顔が返ってきた。
やはり女性には笑顔が一番似合う。
人混みに紛れながら俺は口元をその深緑のマフラーで覆いなおした。
柔らかく、緩やかで、そして滑らかな温もり。
欠けた記憶を埋めていく。
俺には体温など無いけれど、それでも温感は存在している。
あの目覚めた墓場の空気はやけに熱かった。
耳鳴りがする無音の夜。けれど、確かにそこには天と地を繋ぐ雫。
――俺の好きなもの。
雨。(俺が生まれた世界の象徴だから)
黄昏。(誰かに呼ばれる気がするから)
御伽噺。(運命の姫君と結ばれるから)
ベリィ。(潰すと血みたいだから)
人混みに紛れる、けれど溜まりの様に空気の循環が一時耐える場所。
そんな場所に俺は持ってきた更紗の布を張り巡らせる。
大きい必要は無い。俺が身を太陽から隠せるほどに小さな社になれば、それで。
緋色の布地の上に幾つか空の瓶。
そして更に遮光瓶を並べて上にまた更紗をかける。俺と同じように光に弱い子供達。
俺と同じだからこそ、光に弱いのかもしれない。どちらが果たして先なのか。
小さな香台に精油を一滴垂らして熱を加えれば、そこは俺だけの世界になった。
ゆっくりと深緑の布地が俺の香りに染められていく。
早く俺の一部になってしまえばいい。
そうすれば、そうすれば、あの童話の姫君達の様に、その物語のように。
道に座り込んでしまえば人混みからは隔離される。
俺はそれに満足してそのまま取り出した物語の栞を指で辿った。
あとで時間があればこの露天市に本を出している人達がいないかどうか調べてみようとも思う。
王子と姫君の、騎士と姫君の、愛らしく美しい御伽噺の数々を。
物語の中にたゆたう。
その俺を呼び覚ましたのは一つの花の香りだった。
俺の構築した世界に割り込むように、控えめに、けれど静かに流れ込む……懐かしい気配。
顔を上げると光の中に少女がいた。
眩しいのは光の所為だけではないだろう。
「どうしたんだい……哀しさを紛らわせたい?
反対に世界の色さえ舞うほどの幸せがあなたに降り注いでいるのかな
……それとも、恋の媚薬をお探し?」
手に持っていた本をぱたりと閉じる。
金の瞳。その色に見覚えがある。宵の中の意志の色。
「誰かの記憶にわたしを刻む……それも素敵だけれど、その逆を。
忘れたいけど、……忘れなくちゃいけないけど、忘れたくない想いがあるんです。香水があれば、その香りを嗅いだら、忘れずにいられるかなって。
甘くて、ほろ苦い、そんな記憶を閉じ込めておける香りを、お願いできますか」
少女が俺の“君の願いを閉じ込めてあげよう”という言葉に応えたのはそのようだった。
願い。日差しが傾いて緩く俺の時間が近づいてくる中でそれだけを思った。
あの時俺は何を考えたのだろう。
記憶。
その言葉は酷く俺をどこかに連れて行こうとする。
じっと俺の手元を見ていた少女。
イモーテルとマージョラムの香りがゆるゆると螺旋を描く様子が見えた。
ハチミツのような甘さが俺の手の中でふわりとあの中毒性さえ帯びるマージョラムの苦味に姿を変える。
俺の記憶はそんな形状をしているのかもしれない。穴だらけの二重螺旋構造。
有機生命体としてのあるべき形を持たない俺には相応しいのかもしれないけれど。
選び抜いた幾つかの香りを彼女は気に入ってくれたようだった。
本当なら、ここではなく俺のあの領域で形にしてみたかった願い。
彼女は小さな夢をその雫に託して、そして甚く丁寧に礼を述べてくれたけれど。
風がふわりと深緑のマフラーの端を宙にはためかせる。
どうか枯れず俺の記憶をその糸隅々に織り込んで。
香りは最早俺の記憶の起爆剤にはなりえなくなってしまった。
変わらぬ温感は俺の海を静かに巡る。
――温感は、嘘をつかない数少ない人間の情報だから。
俺には過去がない。記憶がないのだから、あったとしても存在できない。
過去が無い。
それはあの屋敷に仕える多くの人たちの共通の事項だ。
メビウスの輪に捉われるには過去をすてなくてはならない。
永遠に巡る春の為の。
(プリマヴェーラ。お前をそう呼ぶことにするよ、シャーマットのリデル)
アッシャー。かつてはそう呼ばれたはずの幼い俺の姿が霧の向こう側で笑った気がした。
俺は、名よりもフィルツァーンのように戦場を駆け抜けるまでになったけれど。
視界の片隅で銀の槍がちりちりと俺を責め立てるように笑う。
コイツとであったのもいつだったか。俺はどうして槍術と銃撃を修得したのか。
――ああ……本当は考えるまでもないことなのに。
御伽噺の主人公は、姫を護る力が与えられるのに何の疑問も抱かないじゃないか。
それと、同じことに違いない。そうに決まっている。
そうでない、理由などこの世界のどこにも存在はしていない。
星屑の賽を幾つこの大地に散らしたら、俺は彼女に出会えるのだろう。
そして
俺の愛しているもの。
アリス。(唯一無二の存在だから)
アリス。(俺の護るべき姫君だから)
アリス。(俺の運命そのものだから)
アリス。(鳥篭も銀の鎖ももう用意してあるよ)
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