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錦上添花色更鮮


アナタに続く足跡 香りの軌跡

Day.22 and...

10/20-00:39-COM(0)-TB(0)-記憶
光が落ちるな、と思った。
いつからかはわからないけれど、もう忘れてしまっただけなのかもしれないけれど
俺は時々ふとそう思うことがある。







光が落ちるな、と思った。
遠い山の端がふわりと揺らぐ時間がある。
俺はそれを見るとどうしようもなく後ろを振り返りたくなってしまうのだ。振り返ってはいけないのに。エウリディケのように。
胸の奥の宝石がふるふると空気に揺れているのだ。
あの山の奥できっと、世の全ての穢れから取り残されたような姫君はそこに身を横たえているのだ。
――俺はエウリディケなどではない。そこまでいきついて水面に辿りついて呼吸をするように息を吐いた。

小さな小さな荷物から衣服を抜き出す。
もう慣れた手つきでゆるゆると布を身体に巻いていく。
この格好をするとあの人はいつも不思議な顔をした。
――お前はまるで、××に似ているね、と少し懐かしい何かを見るような顔で。

今日はお祭りだ。
俺の知る祭りとは少し違う。冷たい香りがする。
きっと驚くほどに花がむせ返るのに、きっとその奥底は甘くて、凍えるほどに冷たいのだろう。
俺の花を剥いていくときっと何も残らないように。
月が昇る。星が瞬く。水に雫が落ちるように、俺の毛先から一輪の、蓮の香り。

ふわり、と菊の花が浮いた。
お前には似合わないな、と何度あの姫を笑わせたことか。
この髪で。この瞳で。この肌で。この服で。
ティエンファ、と。ジンシャンティエンファ、と俺の新しい名前をその赤い姫が口にした時のすとん、と落ちるような何か。

 お前の肌にこの幾重に重なる花は似合わないよ
 似ているものがあるのだとするなら……
 そう、そのお前に不思議なほどに似合うその織り成す衣だけだろう
 ――錦上添花、この名前すら似合わないのに

絳紅よ、もう一つ付け加えよう。
――俺はアリスに、俺の姫君に、俺の運命に出会うまで何度この身の塵と香りを核に纏わせようか。
あの時、変わらないと笑った未だ生の面影ある俺の事をお前はまだ覚えているかい?
錦上添花、そう名乗ると決めた俺のことを。その影を。
この俺の姿はそれほどまでにこの名に似合わないか?

ぽう、とかがり火が浮く。
しゃらりと衣服についた鈴が鳴った。静かな、音だ。
世界を目覚めさせる音。誰かと呼び起こす音。
しゃらり。しゃらり。
澄んだ世界の中の、一つの予感。

 灯明祭を知っている?

その俺と似た肌の色を持つ少女は笑った。

 10月の新月の夜にはかみさまが地上におりたつのよ
 たくさん灯りと花を飾って、その香りと光でかみさまが迷わないように迎えるの

かみさま。カミサマ?
――神様って?と聞いた俺に彼女はふふ、と曖昧に笑った。
アナタの神様はだぁれ?と聞くように。

花の香りが強くなる。
瞼の裏も光で染まる。
音が脳の奥で響く。


俺の、カミサマ?


かちゃりと金のロケットが音を立てた。
緩い反動で開いたそこからまた花が零れる。
たった一夜の魔法だ。

こんな魔法があるのなら。
どんな奇跡なら許される?

しゃらん。しゃらん。
音が変わった。
冷たい冷たい、水の底のような香りの中の音。

――…………

俺の名前が、聞こえた気がした。
錦上添花じゃな、い、俺の名前。


俺の傍を舞う花に入り混じって、浮かぶ淡い影。


ぞくりと背筋が泡立つ感触。

 
俺は君の影を知らない
俺は君の名を知っている
世界で最も美しい名前
けれど


 ....を語ってはならない
 ....を描いてはならない
 ....を書いてはならない
 ....を彫ってはならない
 ....を歌ってはならない
 ....の名を呼んではならない


そんな教義を聞いたのは俺が何時の事だったか。未だ生きていた時か。それとも。

その名を呼んではならない。
では。
……では、君は、あなたは誰だ。
どうすればその幻を俺の手の中に抱きしめられる?
俺は君の名を呼ぶことでしか君を、

――それは遠い国の教義だ。
俺は君を喉が潰れるほどに語れるしどんな白いキャンパスにでも君を描ける
遠い物語に埋もれるのだとしても君を書きあげるし君に息を吹き込むようにその姿を彫りこむだろう
轟音響く雨の夜でさえ君を歌わない時は無く……俺は こんなに長い間君の名を呼んできた
                 君の名だけを呼んできた。
俺はそれだけの為に生きている。君の幸せの為に。

君がいないのならこんな世界なんてゴミに等しい。そうだろう?

俺のアリス 俺は君のものだ
君が望むのなら 世界を滅ぼしたっていい
どうかあのサロメのように愛しい人の首を俺にその唇でねだってくれればいい
君がもし俺の首をねだるのなら、俺は至上の至福の中で君に微笑んだままこの胸の宝石を打ち砕くだろう


だから


「……アリス?」

俺の指先が震えている。
このまま風に乗って指先から身体が崩れて塵になってしまうのではないかと思うほどに。

振り返ることが出来ない。
君を仰ぎ見ることが出来ない。

俺は君を知らない。
その絹のような髪も、光を反射する瞳も、その至福の唇さえも
なのに、俺は君を知らないのに


…………君は、誰だ……?


君はこの島に居るのか
俺がこの島で出会った多くの魅力的な女性の誰かなのか
俺は君の香りを知っているのか
俺は、


俺は、この運命でやっと君の騎士になれるのか


散る花びらがほぅ、と明るい光を放つ
一瞬だけ映る情景 懐かしい色 
……きおく と呼ばれる何か
俺の記憶 知っているものもあれば知らないものもある
たくさんの女性達の姿 感情を喚起する懐かしい喧騒

耳に飛び込む聞きなれない言語の数々 怪しげな露天商
口元まで覆った砂塵の国の香料染みの布端
黒の髪金の瞳 光を反射した金のフープピアス
軌跡舞う赤く塗られた爪先と竹の扇 清流を奏でた銀の笛
床に散らばった重なる薄絹 宙に踊るアンクレットの宝石の、色

蟲に食われた記憶 
俺には過去など必要では無い
俺に必要なのは、俺の姫がいる未来だけだ

けれどその過去が川に流される燈篭のように俺の前で広がるのはきっと、


――…………ル……


 ニセモノ、なんかじゃない。

無意識の逃避が俺の感情を侵食していく時
ふと響くその名前に脳が目覚める
子供のように泣きそうになってしまう 
俺が生涯と生命と人生と考えられるだけの全てを捧げた存在の影 あるいはその欠片
この夜に浮かぶのはそんなものであるはずで

その目覚めは俺の身体に振り返ることを強いるから

菊に芍薬、ダリアに蓮
名前も知らないたくさんの花が俺のロケットから零れていく
その八重咲きの多く核に纏わる花弁をはらはらと散らして
風がそんな花弁を俺の記憶と一緒に舞い上げる
舞い上がって消えていく俺の記憶は
そのまま振り返った俺の視界を遮って、

薄桃に染め上がった錦の向こうの影が揺らい、で


「 ア  リ  


突如吹いた一際強い風に反射的に目を閉じ纏った布を抑える。
ばたばたと布が俺の肌を打ちつけてその風は全ての花弁を奪っていった――俺の記憶ごと
風が耳の横を通り抜ける時、不思議とその風は温もりを持っていて
そのくすぐったいような接吻は俺の胸の宝石の色を確かに変化させた。

目を開ければ、目の前には溢れるほどの曼荼羅の光
色とりどりの花の気配と、人々の香り

変わらぬ島の大地と闇 そこにはなんの影も温もりも無い
俺の傍をどんどん光に惹かれる様に人が歩いていく
そうだ、灯明祭なのだ。花と灯り、歌声に菓子、温もりの乱舞。
世界の温度が下がったようで風がひんやりと心地よい


 10月の新月の夜にはかみさまが地上におりたつのよ
 たくさん灯りと花を飾って、その香りと光でかみさまが迷わないように迎えるの


ああ、カミサマ。俺の神様。
あんたは俺の元に迷わず来てくれる?――それとも来てくれた?
俺の世界で一番愛しい人の、俺の世界そのものの、俺の運命の姿を少しだけ借りて。
いいや、――アリス、君が俺のカミサマそのものなのか?
だとしたら……俺はこの世になんて戻ってきたことが間違いになってしまうな。
せめて俺に恋したカミサマの使いくらいであって欲しい、なんて戯けたことを考えてしまうほどに。

俺は未だ君に会えない。
君が天使なら俺は地獄へと君を堕としてでもこの腕に抱きしめるのに。
俺のアリス。
俺は未だ君を知らない。
君が天使だとしてもその翼の一欠、その温もり、俺を呼ぶ声、それだけで俺は何度でもこの輪廻の中を生きていこう。
俺のアリス。



君の棺を埋め尽くすほどの花になって、いつか君を迎えに行くよ


(――銀の美しい、鳥篭と共に)
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