Day.21 |
10/17-01:23-COM(0)-TB(0)-記憶 |
槍をふっと払って矛先についた血液を落とす。
小さな放物線を描いてそれは乾いた大地に吸い込まれていった。
俺の――俺達のお姫様は静かに眠っているようにも見えた。
猫耳の騎士殿はいつも通り静かな表情で空を見上げている。
彼女の剣の音がかちりと聞こえた気がした。
俺とアリィゼ殿が名も知らぬものから受け取った手紙は、とある一人の高貴な方の護衛を、ということだった。
俺は雇われ騎士とは少し違うけれど、特に問題もなくこの依頼を受けた。
彼女が俺のアリスだったら素敵だったけれど。それとは違って、……俺は大会に多く出て多くの人と出会い多くの人の前にこの身を晒さなくてはならない。
俺を探しているひとがいるのだ。
俺が探しているひとがいるのだ。
正確には俺が傅くのを待つひとが。
俺が命を捧げるべきひとが。
俺の宝石は何度地面とぶつかって乾いた音を立てたであろう。
俺の細胞は何度風に舞い上がりふわりとこの空気にその塵を舞わせた事だろう。
俺の血潮は何度その香りを辺りに侵食させたことだろう。
まるで香水瓶が砕け散るように俺の香りはひしゃげていく。
カラン、と音を立てて崩れ落ちた槍を取り上げれば目に入るメビウスの輪。逃れられない運命の象徴。
そのメビウスの輪の中には……
試合が終わり、控え室に引き返すと廊下でアリィゼ殿が渋い顔をしていた。
どうした、と聞けば寄越された手紙の達筆な、生命力の無い文字。
麗しきお姫様の騎士は楽しくて、そしてそれでいてきっちりと仕事は達せられたらしい。
そう、彼女は指定された相手以外にその力を暴走させることなく、喰らう事無く今は体力を使い果たして眠っている。
俺と同じようにもう人間ではなくなった、彼女は。
“お目付け役”としての俺はこれで良かったのか。そんなことも考えないわけではない。けれどそれは別の俺の領域だ。
俺は本来、誰かの騎士なんかではなくアリスの騎士なのだから。
遠い喧騒の向こうに、俺は居た。
そんな気がする。
いつも俺は夢を見ている。夢はもう見ないのに。
ゆめのあと。そんな響きだ。
緩くて苦くて、花が散るようにその蜜の香りも発散していく
肌で立ち上る香りではなくて、焔で瞬間的に気化してしまった香りの音色。
島の日常。
俺はどこから。あるいはいつから。
――俺のオヒメサマの、アリスの現実に立ち入ることが出来る?
アリス。
君はあの多くの観衆と圧するほどの歓声の下でそのか弱い肩を震わせていたの。
あるいは――……俺と同じ場所にその何よりも清らかな赤き血を零していたの。
薄く落ちた太陽と昇る月。
静かな夜の色。冷たい墓場の空。
俺達の色。俺達の世界。誰でもない俺達の。
ぽっかりと切り取られる月のように、闇に光が浮かんだ。
「おかえりなさい」
「なのだ☆」
「……ただいま」
そして扉の閉まる音。
風圧が俺の髪を揺らして熱を空に返していった。
小さな放物線を描いてそれは乾いた大地に吸い込まれていった。
俺の――俺達のお姫様は静かに眠っているようにも見えた。
猫耳の騎士殿はいつも通り静かな表情で空を見上げている。
彼女の剣の音がかちりと聞こえた気がした。
俺とアリィゼ殿が名も知らぬものから受け取った手紙は、とある一人の高貴な方の護衛を、ということだった。
俺は雇われ騎士とは少し違うけれど、特に問題もなくこの依頼を受けた。
彼女が俺のアリスだったら素敵だったけれど。それとは違って、……俺は大会に多く出て多くの人と出会い多くの人の前にこの身を晒さなくてはならない。
俺を探しているひとがいるのだ。
俺が探しているひとがいるのだ。
正確には俺が傅くのを待つひとが。
俺が命を捧げるべきひとが。
俺の宝石は何度地面とぶつかって乾いた音を立てたであろう。
俺の細胞は何度風に舞い上がりふわりとこの空気にその塵を舞わせた事だろう。
俺の血潮は何度その香りを辺りに侵食させたことだろう。
まるで香水瓶が砕け散るように俺の香りはひしゃげていく。
カラン、と音を立てて崩れ落ちた槍を取り上げれば目に入るメビウスの輪。逃れられない運命の象徴。
そのメビウスの輪の中には……
試合が終わり、控え室に引き返すと廊下でアリィゼ殿が渋い顔をしていた。
どうした、と聞けば寄越された手紙の達筆な、生命力の無い文字。
麗しきお姫様の騎士は楽しくて、そしてそれでいてきっちりと仕事は達せられたらしい。
そう、彼女は指定された相手以外にその力を暴走させることなく、喰らう事無く今は体力を使い果たして眠っている。
俺と同じようにもう人間ではなくなった、彼女は。
“お目付け役”としての俺はこれで良かったのか。そんなことも考えないわけではない。けれどそれは別の俺の領域だ。
俺は本来、誰かの騎士なんかではなくアリスの騎士なのだから。
遠い喧騒の向こうに、俺は居た。
そんな気がする。
いつも俺は夢を見ている。夢はもう見ないのに。
ゆめのあと。そんな響きだ。
緩くて苦くて、花が散るようにその蜜の香りも発散していく
肌で立ち上る香りではなくて、焔で瞬間的に気化してしまった香りの音色。
島の日常。
俺はどこから。あるいはいつから。
――俺のオヒメサマの、アリスの現実に立ち入ることが出来る?
アリス。
君はあの多くの観衆と圧するほどの歓声の下でそのか弱い肩を震わせていたの。
あるいは――……俺と同じ場所にその何よりも清らかな赤き血を零していたの。
薄く落ちた太陽と昇る月。
静かな夜の色。冷たい墓場の空。
俺達の色。俺達の世界。誰でもない俺達の。
ぽっかりと切り取られる月のように、闇に光が浮かんだ。
「おかえりなさい」
「なのだ☆」
「……ただいま」
そして扉の閉まる音。
風圧が俺の髪を揺らして熱を空に返していった。
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