Day.16 |
08/30-06:57-COM(0)-TB(0)-記憶 |
雨の本性は濡れること、火は燃えること
夜の一大原因は太陽が見えなくなること
W,Shakespeare “お気に召すまま”
蒸し暑い、と思った。それが一番最初だ。
その次に気づいたことが音が無いな、ということで、そこで初めて俺は深く肺に空気を満たした。
(――正確には、俺が肺だと思っている器官に)
月は無く、世界は明るかった。そして咽るように甘かった。
最期に見た景色と同じように、明るく生の香りがした。
――最後?
頭がズキン、と痛んだ。さいご、とは何のことだろう。最後。……最期。
目の前に真っ白な風景が広がって俺はたまらなくなり膝を地に着く。
世界の色と香りが濃くなった。
ぐらり 揺れるのに それでも音はなく
はなはないのに 紅いはなのかおりとみずのけはい
ぱちり、と脳裏にひかりが満ちるのに それが何かはおもいだせない
くびにいたみがはしった そこにあるものを おれはしって……
つちのかおり あしおと アリス きんのつき しおのかおり アリス めびうすのわ
じゅうじか アリス ありす あr
何故か月の香りがした
***
目を開けると、世界がゆらりと揺れた。
貴方はそこで夢を見ていたのだと気づく。
夢を覚えてはいない。覚えていることは出来ない。
――どうして夢を見るのかもわからない。
心はあるのか、と貴方は自分自身に問いかける。
例えば女性の肌の温もりや唇の柔らかさを知っているのは、俺の中のどの部分なのだろう、とも。
それと同じように、夢を見るのはどの器官なのだろうかと。
最早心臓もなく血潮も失い、それでも俺を駆り立てるものは、と。
自分の全てはどこから来ているのだろう?
華やかな祈りも敬虔な木漏れ日も美しい彼女の――……
簡素に纏められた小さな荷物の口を貴方は開いた。
久しぶりの遺跡の外の空気を肺に冷たく、そして心地よかった。
肺に満ちる空気をゆっくりと、意識を傾けてからだの外に追い出す。
――正確には、貴方が肺だと思っている器官から。
貴方はペンと手紙を取り出して、その先をインクに浸した。
流れるように、淀みの無く紙の上を文字が滑る。
そのインクの色は夜の色を集めて溶かしたような色で、――でもそこには月ほどの救いの色は何処にも見当たらなかった。
“......Un'altra notte di illusioni......gente immersa nell'ipocrisia ......”
親愛なる俺のアリス
俺は貴女の騎士で貴女を護るためにあるのに
どうして貴女の呼ぶ声を俺は聞くことができないのだろう
俺を許してとは言わない この罪も俺と貴女を繋ぐ絆になると信じている
どうか貴女の瞳の中に俺が映ったその時は俺を罵ってもいい
俺は生涯貴女のもので いや生涯なんて言葉じゃ足りないな
俺は前世も来世も勿論今この瞬間でさえも貴女のもので貴女だけが俺の……
とめどなく文字が認められて行く
風の中に溶ける貴方の声はあれほどまでに清潔で柔らかいのに、夜に溶けるその思いはどうしてこんなに醜く歪んでいるのだろう
今日も、届かない手紙に一つ封がなされていく。
月の光に、貴方の首筋が照らされてただそこにある紋章だけが鈍く照り返していた。
夜の一大原因は太陽が見えなくなること
W,Shakespeare “お気に召すまま”
蒸し暑い、と思った。それが一番最初だ。
その次に気づいたことが音が無いな、ということで、そこで初めて俺は深く肺に空気を満たした。
(――正確には、俺が肺だと思っている器官に)
月は無く、世界は明るかった。そして咽るように甘かった。
最期に見た景色と同じように、明るく生の香りがした。
――最後?
頭がズキン、と痛んだ。さいご、とは何のことだろう。最後。……最期。
目の前に真っ白な風景が広がって俺はたまらなくなり膝を地に着く。
世界の色と香りが濃くなった。
ぐらり 揺れるのに それでも音はなく
はなはないのに 紅いはなのかおりとみずのけはい
ぱちり、と脳裏にひかりが満ちるのに それが何かはおもいだせない
くびにいたみがはしった そこにあるものを おれはしって……
つちのかおり あしおと アリス きんのつき しおのかおり アリス めびうすのわ
じゅうじか アリス ありす あr
何故か月の香りがした
***
目を開けると、世界がゆらりと揺れた。
貴方はそこで夢を見ていたのだと気づく。
夢を覚えてはいない。覚えていることは出来ない。
――どうして夢を見るのかもわからない。
心はあるのか、と貴方は自分自身に問いかける。
例えば女性の肌の温もりや唇の柔らかさを知っているのは、俺の中のどの部分なのだろう、とも。
それと同じように、夢を見るのはどの器官なのだろうかと。
最早心臓もなく血潮も失い、それでも俺を駆り立てるものは、と。
自分の全てはどこから来ているのだろう?
華やかな祈りも敬虔な木漏れ日も美しい彼女の――……
簡素に纏められた小さな荷物の口を貴方は開いた。
久しぶりの遺跡の外の空気を肺に冷たく、そして心地よかった。
肺に満ちる空気をゆっくりと、意識を傾けてからだの外に追い出す。
――正確には、貴方が肺だと思っている器官から。
貴方はペンと手紙を取り出して、その先をインクに浸した。
流れるように、淀みの無く紙の上を文字が滑る。
そのインクの色は夜の色を集めて溶かしたような色で、――でもそこには月ほどの救いの色は何処にも見当たらなかった。
“......Un'altra notte di illusioni......gente immersa nell'ipocrisia ......”
親愛なる俺のアリス
俺は貴女の騎士で貴女を護るためにあるのに
どうして貴女の呼ぶ声を俺は聞くことができないのだろう
俺を許してとは言わない この罪も俺と貴女を繋ぐ絆になると信じている
どうか貴女の瞳の中に俺が映ったその時は俺を罵ってもいい
俺は生涯貴女のもので いや生涯なんて言葉じゃ足りないな
俺は前世も来世も勿論今この瞬間でさえも貴女のもので貴女だけが俺の……
とめどなく文字が認められて行く
風の中に溶ける貴方の声はあれほどまでに清潔で柔らかいのに、夜に溶けるその思いはどうしてこんなに醜く歪んでいるのだろう
今日も、届かない手紙に一つ封がなされていく。
月の光に、貴方の首筋が照らされてただそこにある紋章だけが鈍く照り返していた。
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