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錦上添花色更鮮


アナタに続く足跡 香りの軌跡

Day.15

08/26-00:01-COM(0)-TB(0)-記憶
この地獄に導く天国ともみえる女を
避ける道はだれも知らない

W.Shakespeare ”The Sonets no.129”




貴方は目を開けた。
無音が貴方の耳を侵食して、只管に顔を歪ませる。

月の無い夜なのに、貴方の周りには世界が昼と変わらず広がっていた。
いいえ、広がっているように見えた。
何の苦もなく、ただ自然であるように。

最期、と貴方は思いを馳せる。
その夜は雪が降っていて、胸に押し当てた掌は赤く暖かかったことを覚えていた。
目を閉じる前に見た鮮烈な朝日と身体を包み込んだぽふりとした雪の層が、彼女を思い出させた。

そこは墓場だった。
月はなく、雨もなく、そして鳥の声もない。
貴方は気がつくとその一つの墓標の前に立ち尽くしていた。

名前は読めない。
ただ貴方を支配しているのは、咽返るほどの懐かしい“生”の香りと無音だけ。

血の気配のない手。
自分から漂う甘い香り。

漂白されたような視界を認識した瞬間
貴方はたった一つの単語だけを胸に抱いて散る。



***



私を呼ぶ声がした。
清潔な、洗いざらしのリネンのような声。
私に触れる時はいつも柔らかい、その声。

私はぱたん、と持っていた本を閉じた。
それは彼がかの黄金色の午後にねだられて閉じていたのと同じ仕草だと少し思う。

「今行くわ」

椅子から立つと風が私の白のドレスの裾を僅かに翻した。
チュールの白は、雪の白とは全く違う。

扉のところに声の主が微笑んでいる。
私は“水面を歩くように”彼の元へと辿る。

「君は相変わらず御伽噺が好きだね」
「そうかしら?」

ふふ、と笑って私は愛しい王子様の腕に自分のそれを絡めた。
彼が夢見ているものは一体何なのだろう、と思いながら。
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アナタだけの騎士になる為に
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アナタの錦に花を添えるために

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